娘が高校3年生の時、念願のインターハイ出場まであと一歩という状況で、当時も今もテニス界で大活躍を続けるジョコビッチ選手の著書「生まれ変わる食事」を読みました。小麦を控えることで良い結果が出たという内容に強く惹かれ、最後の予選に向けて、わが家でも2週間小麦を控える食生活を試してみることにしました。
結果惜しくもインターハイ出場は逃しましたが、この2週間で私共に思わぬ変化が訪れました。40代頃から感じていた、漠然とした身体の不調が著しく改善されたのです。この快適な体調を維持できるなら、と試しに1年間小麦を控えてみたところ、さらに体調が改善されるのを実感しました。長年の悩みだった花粉症の症状も消え、頭の中にかかっていたモヤモヤした霧のようなものが晴れ、日々の生活が劇的に改善していきました。
体質や体調は人それぞれですので、あくまで自分自身での「人体実験」として、その後2年、3年と静かにグルテンフリー生活を続けました。体調の変化に確信を得るようになり、「食べているものから身体はつくられる」ということを改めて痛感しました。そしてこの経験をなんとか店のメニューにも活かし、「未病」という視点から、お客様の健康の一助になれば、と考えるようになりました。
現在でこそ、コースメニューに小麦に関わる要素はありませんが、当時は強力粉や国産の薄力粉・全粒粉を25kg単位で仕入れ、パン、カレー、デミグラスソースなどに使用していました。そこでまず取り組んだのが、これらを米粉に置き換える研究でした。コストが5倍になるだけでなく、成形が難しかったり、風味や粘度が大きく変わったりと、試行錯誤の連続でした。
さらに、意外なものにも小麦が使われていることに気づきました。その代表格は「醤油」です。はじめのうちは、小麦不使用の特殊な醤油を高額で取り寄せていましたが、程なくしてキッコーマンさんが業務用サイズの「グルテンフリー醤油」を発売されました。これによりコストを削減できただけでなく、日本を代表する超大手メーカーがこのような商品を展開するという事実に、「自分たちの取り組みは特殊なことではなく、時代の流れに先んじた動きなのだ」と大きな心強さを感じました。約2年をかけ、小麦を使用していた頃と比べても遜色ない、あるいはそれを超えるようなすべてのレシピを確立することに成功しました。一つずつ代替品に取り組む中で、レシピや構成など、仕事全体がどんどん削ぎ落とされてシンプルな方向に進んでいき、現在のコース体系へと繋がっています。「当たり前」と思っていたことに対して思い込みを排除し、再確認しながら進めてこれたのも「グルテンフリー」の産物かもしれません!