この年の夏は連日38度以上の気温が続き、この地方一帯に大変なことが起こりました。
カメムシを始めとして大量の害虫が発生し、稲や野菜を食べ尽くそうとしていました。農薬を使っても、その害虫は死ぬことはなく、夏の終わり頃には村のほとんどの稲や作物が被害を受け、収穫できる日はほとんどありませんでした。
今までになかった程の大被害が発生していました。県の役人が村の担当職員とともに調査に入りました。村の南の田から始まり、東の田、西の田をまわり、被害の大きさに驚いています。
最後に北の田んぼの調査をしている時でした。北の田んぼの中にところどころに青々と成育し、みごとに稲が実っている田んぼがあることに気付いたのです。
その田に県の役人が近づいて見ると、みごとに実っている稲には害虫による食害の発生はほとんどありませんでした。
良く見ると不思議なことに、この田の稲にはたくさんのアオガエルが茎や葉にとまっていたのです。アオガエルは、害虫をエサとして食べていたのです。アオガエルは一株の稲に数匹もとまっていました。
県の役人達は、カエルが害虫を食べている姿を目のあたりにしたのです。
「でも、なんでこんなにたくさんのカエルがこの田んぼだけにいるんだろう」
県の役人が不思議がりました。
その時、調査に同行した村役場の職員の誰かが
「あっ、この田んぼは三太のとこの田んぼだ!」
そう大声で叫んだのです。
県の役人達は、どうしたらカエルを増やせるのかを調べるため、村の職員に案内してもらって三太の家を訪ねました。
役人は三太に会い、三太がつけている「観察日誌」を見せてもらいました。
そこには、何年も前からオタマジャクシを救って、自分の田んぼに放した様子や、カエルがエサとして何を食べているか、暑い夏にどう過ごしているか、寒い冬はどこで過ごしているか、春になるとどこから出てくるのかなど、何から何まで細かく記録されていました。
三太の観察日誌は、大切に県の役人に渡され、害虫防除の研究に貴重な資料となりました。
県の役人達は、三太に直接カエルや田の生き物達の話を聞くため、三太の田んぼに一緒に行き、三太から話を聞きました。
「三太さんは、オタマジャクシを他の田んぼからすくって来て、三田さんの田んぼに放してやっていたのですか?」
と質問したところ、
「はい、放していました。」
三太は答えました。
「いつ頃から、そんなことを考えついたのですか?」
役人は三太に質問しましたが、しばらく考えた後、三太は
「えっと、忘れました。」
三太は言葉に詰まって下を向いてしまいました。
そこに役場から知らせを受けて、文先生が走って来ました。文先生は、県の役人や役場職員に、三太が田んぼでしていることについて説明をしました。
「三太くんと三太くんのご両親は、自分の田んぼには農薬を使用していません。肥料も米糠や山の木の葉や鶏糞などを使用して自然のままに育てています。
田干しで苦しんでいるオタマジャクシを救って自分の田んぼに放しているのは、小学校に入学してからで、毎年繰り返しているのです。
三太くんに救われたカエル達は、三太くんの田んぼで生き、春になってからも三太くんの田んぼで卵を産んでいます。三太くんは、田の生き物を大切に育て、自然のままに稲を育てているのです。」
文先生は役人達にそう説明して、
「そうですね、三太君」
と三太に話しかけました。
三太は、大きくうなずきました。
そしてしばらく何か考えてから、役人達に言いました。
「あの、明日の朝早く、この場所に来てくれますか」
三太はそう言って、しばらく下を向いていましたが、そのまま文先生と一緒に帰ってしまいました。
県の役人達は、三太が何を話したいのか、何を見せたいのか分からず、ただ言われるままに翌日の朝早く来ることにしたのです。
