和牛の等級は1991年に開始された制度で、当時「ガットウルグアイ・ラウンド」の合意により、米・豪からの牛肉の輸入が解禁された際、日本の畜産農家を守るために制定されました。卓越した霜降り牛肉の価値を保全するための仕組みで、この施策は大成功を収めました。
ただこの等級は味等ではなく「歩留まり」と「見た目の色沢による肉質」に対する評価です。そもそも相対評価である「味の良さ」を等級で示すこと自体に無理がありましたが、30年前は、本当に美味しく、優秀な牛でないと獲得できない等級でした。
それ以前は、生産現場も学術関係者も「どうしたら味の良い牛肉が作れるか?」を目指した研究だったのが、この時期以降「どうしたらA5等級が作れるか?」と目的が変化し、この30年の間に肥育技術や飼料配合がある意味で劇的な進歩を遂げ、容易に「A5等級」が獲得できるようになりました。今や流通する黒毛和牛の約半数が「A5等級」です。その反面全てが素晴らしい品質というわけではなくなり、「A5等級」の中から高品質なものを選ぶ必要が生まれてきました。そうした現状にあって、現在では生産者・流通業者・飲食店・消費者ともに多様性が求められる時代に突入していると考えております。